All 12 tracks: あさぎり/ こどもの唄/ すずらん/ 小さな願い/ Driving to Coast/ ゆめうつつ/ Grass Green/ Sunrise/ らいんのほとりで/ Ave Maria/ Aqua/ ほおずき/ ■長崎県平戸市出身のフィンガースタイル・ギタリスト、真辺雄一郎(まなべゆういちろう)がリリースした初のフル・アルバム『想』(「おもう」と読むとのこと)。一聴して感じるのは、収められた彼のオリジナル作品がいずれも「おだやかな優しさ」とでも表現したい作風を有していることである。そんなオリジナル作品の魅力は、例えば「あさぎり」「すずらん」「ゆめうつつ」「ほおずき」など、かな文字が付けられた作品タイトルからも容易にイメージできるかも知れない。
30歳になる直前に大学卒業後から就いていた公務員の職を辞して単身上京し、あらためて音楽理論を学ぶことからプロ・ミュージシャンの道に進んだ彼だが「ミュージシャンとしての自分の存在を何としても世間にアピールしてやるんだ」といったギラギラした雰囲気はなく、音楽への真摯な態度に裏打ちされた静かな情熱がアルバム全体を覆っている。それは、アルバム・タイトルもアーティスト名も記されていない本作の表ジャケット(長崎県の生月島にある彼が卒業した小学校の写真とのこと)のように、シンプルで飾り気がないようでいて、じっと見つめていると(耳を澄まして聴いていると)ジワジワと深く確かな印象となって伝わってくるのである。ジャケット内側にある島全体の風景や島内の町並みの写真は、幾つかのオリジナル作品からも感じられる望郷の念や自然の美しさへの憧れも想起する。しっとりとしたスローな曲が多いとはいえ作風は多様であり、軽やかな「Driving to Coast」や疾走感のある「Grass Green」など、ソングライティング面でもキラリと光るものが収録作品の随所に窺える。真辺雄一郎という新人フィンガースタイル・ギタリストから届けられた「おだやかな優しさ」に満ちたアルバム、是非お聴き頂きたいと思う。